明大前(和泉)「冬林」は井の頭通り沿いのメキシカン・レストラン「エル
トリート」の真裏にひっそりと佇む。こざっぱりとした明るい店内はさほど広くない。某書には11:30からとあったが実際には正午過ぎに暖簾がかかった。 待つことしばし。正午になり、この日最初の客となった。せいろをお願いした。 一言、素晴らしい蕎麦であった。まず、器がシンプルな白磁だがなんとも言えない大きさ、形なのである。 |
それに落着いた色の盆。そこに、長方形のこれも上品なせいろに蕎麦が載ってくるのだが、またこの蕎麦の盛り方が並ではない。ご主人が蕎麦を茹で上げてから非常に丹念に盛りつけている気配は厨房からも伝わってきてはいたが、なるほどと思った。 麺はかなりの細切り。しかし、強烈なコシ、そしてむせるような蕎麦の香り。噛みしだくほどに口腔に広がるほんのりとした甘味。舌で、鼻腔で、新そばの芳醇な香りを満喫できる。例によって例のごとくつゆ抜きで半分行ってしまう。つゆも素晴らしい。出汁の香りもあるがコクもある。そして力強い麺にしっかり絡みついていく「粘り」もある。自分で「返し」を造るときに「こんな量の三温糖が溶けるのかな」と思いながらアルコール分を飛ばした後の味醂をゆっくりとかき混ぜるのだが、その時のキャラメル感がほのかに「つゆ」に残っていると、その「粘り」のお蔭で麺につゆがしっかりと絡んでいけるような気がする、と思うのは素人考えか? いずれにしてもこのつゆは蕎麦の風味を邪魔せずしかもしかっかりと麺に絡んでいく素晴らしいものであった。 さらに、感動したのは山葵である。ほんのひと握りの山葵だが今まで見たのとは全く違う色なのである。言うならば「ショッキング・グリーン」である。少し蛍光色が入っているような薄めだが光輝く緑なのである。この山葵をすこし麺の上にのせてできるだけ少なめに麺を掴み、さっとつゆに潜らせて口に運ぶ。すると、このショッキング・グリーンはツーンと鼻腔をくすぐる風味を強烈に放つ。そして、それがつゆと、麺とに見事に調和しさきほどまでの麺+つゆとは全く次元の違う味のハーモニーを現出させる。一体この山葵は何処で採れる、なんという銘柄なのだろうか? お代わりに蕎麦の芽をあしらった「おろしそば」をいただいたが、あったかい蕎麦を試すべきだったとちょっと後悔した(おろしそばも美味しかったが、冷・温両方試して見たかっただけ)。 いずれにしても、器、麺、つゆ、薬味の全てに相当なこだわりを持って仕立てられていることがひしひしと伝わってきた。ちょっと雰囲気のあるご主人にしっかり者の奥様という感じもとても気に入った。 杉並区和泉2-9-21 03-3325-3795 (地図は左の住所をクリック) 水曜/第1・第2 火曜 休 11:30-14:00 (但し、現地での確認では12:00から) 夜は予約のみとも。直接電話して確認されることを強くお勧めする。 |