八王子 「車家」       住所・地図等へ 全店一覧へ 

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駐車場から見た前景。堂々たる旧民家。明治7年築。
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                          入口へのアプローチ。
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          手入れの行きどいた庭と正面が入口
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         店内の座敷。テーブル席もある。
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           99軒目の邂逅。絶品のせいろとつゆ

 

   中央高速を国立府中で降り、少しもどって川崎街道→野猿街道。この野猿街道沿いに「車家」がある。

    福島県から移築されたとする古い民家。広い砂利びきの駐車場からこの壮大な田舎屋に見とれながら入口へと歩いていく。入り口には目黒邸とあったような気がするが、これは旧目黒家の屋敷だったのだろうか。

    朝11時。まだ開いていないかもと思いながら伺ったが、既に暖簾がゆらめいていた。どうやら私が最初の客らしい。ついさっき打たれたに違いない土間の水も爽やかに、入って右側の座敷に通される。

   案の定他に客はいない。これ幸いと庭に一番近い膳につく。木の床に小さなざぶとん。田舎屋らしい風情である。お弟子さんたちであろうか、若い衆がこちらに気を使いながらきびきびと動いているのが感じられる。それにしてもとても天井が高い。普通の2階屋はあろうかと思われるほどの高さである。豪農の田舎屋に招待されたような、あるいは修行僧の居る禅寺に足を踏み込んだような、少しピーンと張ったな空気がこれから供されるそばの味への期待を心地よく高める。若き修行僧(ではないけど)に「せいろ」一枚をたのむ。
    はっきり言おう。これまで食べたそばの数々の中で、庵主はこの「せいろ」こそが全ての面で納得のいく一枚であった。まず、麺。やや細めではあるが、理想的な切り幅。美しくざるの上に盛られている。そばの盛り方一つでも審美的にも実際的にも「良い盛り」とそうでない「盛り」がある。いかにもそば同士がもつれていそうに見える盛り方もあれば、手繰ればちょうど一口によい量だけが掴めそうな、そんな気がする盛り方もある。外見に違わず、はしで挟むとスッとちょぼひと摘み分が上がってくる。この段階で既にそば粉の芳醇な香りが漂ってくる。そのまま口に含み噛みしだく。しっかりした歯ごたえと切り口のシャープなエッジ感。そして、そばが放つ芳醇な香りを口一杯に広げて、頬全体で感じ、舌全体でほのかな甘味を味わう。そばについた水の味さえ嗅ぎ分けられてしまう瞬間である。「あー、これだ。自分が真に美味しいと思えるそばの味は」。私見ではあるが、麺に対するこの感覚を都内で探すとすれば、千寿「竹やぶ」森下「京金」亀有「吟八亭」。そばの色や太さ、食感もやや違うがトータルな満足感という意味では新井薬師「松扇」、同じく船橋「船橋更科」(特に田舎)である。
   本当の話、つゆをつけずこのまま何枚でも食べ続けたいと思った。なぜなら、これほどまでの麺になると、それにつける「つゆ」にはよほどの力がないと、台無しになるからだ。
   しかし、そんな心配は全くの杞憂であった。「つゆ」がまた凄い。つゆだけをそば猪口にとってみる。まず出汁の香りがほのかに香る。そして、わずかな量口に含んで見る。するとどうだろう。唇から舌の先あたりまではこの風味が先行するのだが、舌の奥に進むにつれて力強い返しの辛味が効いてくる。大げさだが、このつゆ実は「2段ロケット仕立て」なのである。
   さて、つゆに麺とさらっとつけて食べてみる。そうすると、普通はなかなか両立しない出汁の「風味」とそば粉の芳醇な香りを殺すことなく、麺にからまりつく「力強さ(辛味)」をこのこのつゆは「2段ロケット」方式で見事に両立させているのである。つまり、口に運んだ最初には香りが、そしてつゆのついた麺を噛み締めると辛味が効いてくるという具合だ。「そんな大げさな」と言われるかもしれない。
   しかし、誰ひとりいない広大な田舎屋の座敷に座り、禅寺の修行僧の心境でこの麺とつゆに向かうとき、たった一枚の「せいろ」そばの無限の広がりと奥行きを感じざるを得なかった。
   「つゆ」の完成度の高さまで勘定にいれると、千寿「竹やぶ」森下「京金」が対抗馬として残る。しかし、この素晴らしい田舎屋のもつ独特の雰囲気と、板場や若い衆の立ち居振舞いに現れる精神性の高さを加味すると、冒頭申し上げたとおり、ここに「そば」の究極の姿があると感じた。
   弊サイト99番目の紹介となる当店が庵主の一押しである。ぜひ、早朝の八王子、野猿街道へ。あなたの「そば観」が変わるかもしれない。

東京都八王子市越野3-10    (マピオンの地図 地図は左の住所をクリック) の都道20号(野猿街道)の「帝京大中高入口」交差点と「下柚木」交差点の間の北側。 マクドナルドの並び。表示される地図のちょうど中央辺りです。)  0426-76-9505
水曜、第3木曜休 11:00-15:00  17:00-20:00

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